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【海外交通事情報告 第51回】 普及率世界一 ノルウェーの電気自動車導入促進策 |
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現在の自動車業界の潮流・課題を端的に示すキーワード“CASE” ※1 に含まれる“E”に相当する電動化の領域は、最も目に見える形で事態が進展しています。 2016年11月に発効された地球温暖化防止に関する新たな国際的枠組みである「パリ協定」では、各国は温室効果ガス排出量の削減目標を定め、それを達成するための対策を講じることが求められています。これにより、フランス、イギリス、アイルランド、スウェーデン等で内燃機関(ガソリン、ディーゼルエンジン)車両の販売もしくは保有を禁止する方針が示されています(達成時期を2030年もしくは2040年で設定)。世界最大市場である中国でも、政府指導部が2025年までに年間販売全体の約20%に当たる700万台を新エネルギー車 ※2 とする意向を示しています。 これらの国々に先んじて電気自動車の普及に積極的に取り組んできたのがノルウェーです。先般、同国での電気自動車導入を推進するNPO団体「ノルウェー電気自動車協会」にて取材する機会を得ましたのでご紹介します。
電気自動車保有シェア 世界一、 普及を加速させた独自要因 ノルウェーは、保有台数に占める電気自動車(バッテリー式電気自動車:BEV、プラグインハイブリッド車:PHEV)のシェアが6.4%で、第2位のオランダ(1.6%)を大きく上回り世界一となっています(2017年実績、図表①)。同国内での電気自動車の新車販売シェア(乗用車)については、2019年3月単月では58%まで達しました。 <図表① 国別 電気自動車(乗用)保有状況> 出所:国際エネルギー機関(IEA)"Global EV Outbook2018"一部抜粋 ノルウェーは、50年先を見越した持続可能な循環型社会づくりを目指し、環境対策にもいち早く着手してきました。クルマの電動化を進めるべく、1990年には最初のインセンティブ(購入税及び関税の免除)が導入され、その後持続的にインセンティブの充実が図られてきました。現在は、販売する乗用車及び小型商用車すべてを2025年までにゼロエミッション車(バッテリー式電気自動車、燃料電池車)とする目標が議会決定され、その達成に向けて取り組んでいます。また同年には、ゼロエミッション車の保有台数100万台を実現する、としています。 早くから電動化を推進してきたこと以外にも、電気自動車が普及した背景にノルウェーならではの要因があります。ひとつは、同国内のエンジン車にはオイルの凝固防止の役割を持つブロックヒーターがついているため、各家庭の駐車場、公共駐車場には必ず電源があること、そして自然の地形を生かした豊富な水力発電(電力全体の96%)により、再生エネルギーを創出できる点が挙げられます。
手厚いインセンティブと充電インフラの充実 上述の背景・条件に加え、電気自動車普及に寄与しているのがカーライフに係る「購入(リース含む)」、「所有」、「使用」の各場面で提供されてきた以下の支援です(バッテリー式電気自動車対象、図表②)。 <図表② 購入から所有、使用に係るインセンティブ>
充電インフラの整備については、2011年に本格的な急速充電器(QC)設置がスタートし、政府が50百万NOK(ノルウェークローネ:650百万円、13円/NOKで算出)を拠出しました。2015年からは政府予算が20 ~ 30億NOK(260~ 390億円)に増加したことで、QC敷設が加速し、2017年には国内7,500kmの幹線道路で50kmごとに設置されることになりました。公共の充電スポットは、QCを含め計約9,500カ所に達しています。オスロ市には、省庁等の公的機関が集まる中心部にてかつての防空壕を改装し、充電設備を有する電気自動車専用の駐車場を設けています。85台の駐車スペースを有し、電気自動車は無料で利用できます(写真①、②)。
高いユーザー満足度、 充電インフラの強化でさらなる普及へ このように電気自動車が普及している同国でも、さらにその拡大が期待できる背景、取り組みがあります。 同協会が2017年に実施した電気自動車オーナーに対する調査では、電気自動車への満足度として10段階中のトップ3が約9割に達しているとの結果が出ました。運転のしやすさ、快適さ、静粛性、及び加速性能といった点が評価されています。次に購入するクルマとしても、80%がバッテリー式電気自動車、10%がプラグインハイブリッド車を挙げています。 また、電気自動車の保有台数の増加に伴い、至るところでQCの利用待ちが発生していることから、ユーザーの利便性向上を図るべく、さらに充電インフラを充実していくようです。必要時間以上にQCを占有しないように、分単位で課金を行う仕組みも導入され、それと共に充電器運営業者の収益状況も改善されたといいます。充電施設を拡大する動きについては、民間レベルでも活発になっています。例えば、電気自動車メーカーのテスラは独自でオスロ市郊外に自車向け大規模QCステーション設置・拡大を進めています。フィンランドの大手電気事業者であるFortum社は、ジャガーやアウディ等の大容量バッテリー搭載車にも対応できるよう、最高150kwの高出力QCステーションを設置しました。 電気自動車普及でコンビニとガソリンスタンドが連携 電気自動車の普及に伴い、異業種間の協業が生まれています。充電待機中の顧客を取り込みたいコンビニエンスストア「サークルK」と、電気自動車普及に伴う化石燃料の需要減少が著しいガソリンスタンドが充電器の敷設で連携しています(写真③)。同様の店舗展開を国内20カ所で実施する計画が明らかにされています。 因みに日本では消防法により、ガソリンスタンド敷地内で提供できるサービスは給油や洗車等に限られ、コンビニや飲食店などの設置は認められていません。加えて、充電器設置は給油スペースから6メートル以上離れた安全な場所に限定されています。このため、現状では上述店舗と同形態での運営が極めて難しくなっています。
日本における電動化について、経産省は昨年、2050年までに世界で売る日本車すべてを電気自動車などの電動車両(ハイブリッド車含む)にし、ガソリンだけで走る車をなくす目標を打ち出しました。環境を守りながら、経済成長も果たし、さらに国民の幸福度も高いといわれるノルウェーのように、国づくりの明確な方向性を示し、目標の達成に向け、関連する諸施策の実施を徹底する姿に学ぶべき点は多いと思われます。目標達成に向け、前述のコンビニとガソリンスタンドの協業のように、メリット創出が見込まれる方策の足枷となる規制等が速やかに緩和・見直しされることにも期待したいものです。
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