Traffi-Cationトップページ > Traffi-Cation 2019 秋号(No.52) | ||||||||||||||||||||
【人、クルマ、そして夢。 第21回】交通コメンテーター 西村 直人 世界的な普及が始まる電気自動車の姿 |
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「電気自動車」は世界的に「BEV / Battery Electric Vehicle」と呼ばれています。ここでのBEV とは動力源となる電気を外部から充電してバッテリーに蓄え、その電気でモーターを駆動させ走行する車両です。 呼び名が「電動車」となると BEV だけでなく対象車両が拡がります。エンジン走行とモーター走行を適宜切り替える「ハイブリッド車」、エンジンで発電機を回して発電し、生み出した電力でモーター走行を行う「シリーズ式ハイブリッド車」、タンクに充填した水素を FC スタックにより空気中の酸素と化学反応させ発電し、生み出した電力でモーター走行を行う「燃料電池車」などがそれに当たります。 昨今、環境保全の観点から電動車が注目されていることは皆さんご存じの通りです。とりわけ、BEV と燃料電池車は走行時に CO2 を排出しないことから、次世代のパワートレーンとして普及が見込まれています。 しかしながら、燃料電池車には高額な水素ステーションの建設コスト(ガソリンスタンドの約7 倍にあたる 5 億円程度)にはじまり、水素を高圧(70 メガパスカル)で貯蔵するための安全なタンクを製造する専門技術、さらには FC スタックの開発に手間がかかることから、本格的な普及にはもう少し時間が必要です。 一方、BEV の普及は世界的に進んでいます。2017 年のパワートレーン別生産台数 9,500 万台のうち、BEV は 1%に相当する約 90 万台強で、このうち日本では 2 万 4,000 台が販売されました(国土交通省調べ)。 2020 年には日本、欧州などの自動車メーカーから新たな BEV が発売されます。マツダは2019 年 8 月、BEV の試験車両「e-TPV」を発表し、10 月の東京モーターショーではその市販予定モデルも発表しました。e-TPV は、“ 速くて静か” というBEV の既成概念に「走る楽しさ、走る歓びを大切する」という考え方を加えて作られています。 「人の感性に合わせた走行性能を突き詰めると、運転操作に対する反応時間遅れに答えがあります。よって、マツダは BEV であっても速さだけを売り物にせず、運転操作に対する車両反応を内燃機関車両に近づける(≒ BEV に遅れを付加する)ことでマツダらしさを演出しました」(マツダ商品開発本部 副本部長 田中松広氏)。
フォルクスワーゲンは、「ビートル(タイプ 1)」、「ゴルフ」に続く新世代の大衆車を BEV である「ID.3」に託しました。2019 年 9 月にフランクフルトモーターショーで発表されたID.3 は、車両製造時の CO2 排出量を「 CO2 ニュートラル生産方式」という代替プランにより実質ゼロにし、さらに大衆車らしく 3 万ユーロ(約 358 万円)未満(2019 年 10 月現在)で 2019 年末より欧州を皮切りに販売されます。
このように BEV は普及に向け順風満帆のようですが依然として課題は残ります。リチウムイオンバッテリーに使用するコバルトなどレアメタルの大量採掘、高効率な全固体電池の早期開発、自然エネルギーによる電力確保などが代表例です。 解決にはこの先 30 年程度は必要と言われていますので、現時点、BEV が環境負荷低減に向けた唯一の回答ではありません。既存の内燃機関車両と共存を図っていくことが求められます。また、共存により国と地域のエネルギー事情に応じた電動化がスムーズに行え、その先に“ 環境負荷低減” と“ 移動の質向上” の両立が望めるBEV の世界が見えてくるのです。
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